既存アートフェスから展開のヒントを探る
REPORT-02:横浜トリエンナーレ2008レポート
「横浜トリエンナーレ」は、横浜市で3年に一度開催される現代アートの国際展として2001年から始まり今年で3回目を迎えた。新港ピア、日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)、赤レンガ倉庫1号館、三渓園といった横浜が歩んできた歴史を象徴する4ヶ所を会場に、25の国と地域から72人のアーティストが、パフォーマンスや映像作品を中心に展示を行っている。2008年のテーマは「TIME CREVASSE (時間の裂け目)」。アートが時間というものにどうアプローチし得るのかということを作品ごとに体験できる展示になっている。REPORT-02では、仙台市経済局産業振興課産業振興係の遠藤陽子主事が10月10日~11日まで同展を訪れ視察した内容を紹介する。
1.各会場の概要
- (1)新港ピア
- 横浜港新港埠頭に建設された(平成20年8月竣工)延床面積4,300㎡の倉庫であり、本イベントのメイン会場となっている。横浜トリエンナーレが杮落としであり、約30人の作家の作品展示のほか、カフェ及びミュージアムショップが併設されている。
新港ピア外観(正面)
新港ピア外観(側面)
新港ピアカフェ(奥)
新港ピアミュージアムショップ
- (2)日本郵船海岸通倉庫(BankART Studio NYK)
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1952年建築の物流倉庫であり、その後、日本郵船歴史資料館を経て、現在は若いアーティストを中心とした展示スペースとして多目的に活用されている。トリエンナーレ期間中は約20人の作家の作品展示のほか、カフェ及びミュージアムショップが併設されている。
(写真:日本郵船海岸通倉庫外観)
- (3)横浜赤レンガ倉庫1号館
- 常設展示のほか、ホールでのパフォーマンスや、コンサート、レクチャーの会場となっている。常設作品展示約10名のほか、パフォーマンス3名が参加している。
(写真:赤レンガ倉庫1号館外観)
- (4)三渓園
- 三渓園は、本牧の自然を活かした広大な日本庭園の外苑に配された重要文化財指定の古建築であり、その内部や野外を利用して6名の作品展示が行われている。なお、三渓園は、かつて新進芸術家の育成と支援の場となっていた。
(写真:三渓園外苑)
- (5)運河パーク
- 横浜トリエンナーレ2008の総合案内(インフォメーションセンター)及び半球型のドーム作品が設置されている。無料で作品やパフォーマンスを観覧することができる。
(写真:運河パーク内の展示作品)
- (6)その他横浜市内
- みなとみらい線馬車道駅から新港ピアまでの公道上には、街灯にフラッグが掲げられ、ショッピングモールに広告、工事現場外壁に会場案内が示されている。また、イベント期間中は、市内各所でゲリラ的にパフォーマンスが行われる。
街灯にフラッグが掲げられている
ショッピングモールの広告
外壁に会場案内を示している
2.実施体制
- (1)作品解説
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展示作品については、作者及び作品名のプレートのみ示されており、オフィシャルマップ及び、ガイドブック内にも作品の解説はない(ガイドブックには、作者の紹介が主)。そのため、学習プログラムとしてトークツアーや、音声ガイドによる解説が行われている。
(写真:展示パネル)
- A.ディレクタートークツアー
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トリエンナーレの総合ディレクター水沢勉氏によるギャラリートーク。新港ピア及び日本郵船海岸通倉庫において開催されている。各1時間の解説で、参加無料、先着定員20名。ただし、定員を超えた場合でも参加が可能で、開始から参加していない入場者が、途中から聞くこともできる。トークのテーマは、トリエンナーレのコンセプト、全会場を通しての解説、作品解説等。視察日に、初めて実施された。最終的に40~50名程度が参加していた。
(写真:ディレクタートークツアーの様子)
- B.ボランティアトークツアー
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トリエンナーレボランティアによる作品解説トークツアー。新港ピア及び日本郵船海岸通倉庫において開催されている。各1時間の解説で、参加無料、先着定員10名。ただし、途中からの参加や途中でツアーを外れることも可能。2名程度のボランティアがそれぞれ気に入っている作品の解説を行う。トークのテーマは、作品の内容やボランティアが作品を鑑賞した感想で、参加者からの感想を聞いてトークをしている。一般向けのほか、こども向けトークツアーも開催されているほか、団体向けのボランティア解説も行われている。
(写真:新港ピアボランティアの解説を聞く来館者)
- C.音声ガイド
- ヘッドフォン型パーソナル音声ガイドの貸し出しを行っている。1枚500円のチケットで新港ピア会場及び日本郵船海岸通倉庫会場において、各1回ずつ使用することができる。総合ディレクターによるトリエンナーレのテーマ解説のほか、一部の作品(新港ピア、日本郵船海岸通倉庫展示作品の約半数)の解説を聞くことができる。日本語音声のみの対応で、貸し出し担当ボランティアのヒアリングによると入場者の約10%弱の利用とのこと。
- (2)入場者回遊ルートづくり
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メイン会場が、新港ピア、日本郵船海岸通倉庫、赤レンガ倉庫の3か所あり、最寄り駅(みなとみらい線馬車道駅)から会場まで、また会場間の移動に最大徒歩10分程度かかるなど、1日にすべての会場を見学することは困難であり(総合ディレクターも同様の認識を持っていた)、メイン会場付近をシャトルバスが巡回している。また、日本郵船海岸通倉庫と赤レンガ倉庫、黄金町バザール会場を往復する水上シャトルバスも運行されている。
(写真左:シャトルバス乗り場)
(写真右:水上シャトル乗り場)
- (3)ボランティアの活用(解説ボランティア)
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トリエンナーレ期間中は、ボランティアを常時募集している。設営等のほか、イベント補助や事務局運営、ボランティアガイド等を行うこともできる。参加しているボランティアは、アートに関心のある方(学生等)だけでなく、「何かボランティアをやってみたい」という、アートよりもボランティア活動自体に興味のある方などもおり、年代も幅広い。休日はボランティア希望者も多いが、平日は不足しているようだ。なお、ボランティア活動に5回参加するごとに入場チケット1枚を受けることができる。ボランティアヒアリングによると、10月10日現在登録ボランティアは1,500名程度。
(写真:新港ピア来館者の様子-平日-)
3.所感
9月13日にスタートして以来、10月13日までの1か月間で、来場者数が10万人を突破したということから、1日あたりの平均来場者数が約3千人であるが、会場が多く、分散していることからか、混み合っているという印象はなかった。
週末は横浜市内各地でイベントが開催され(視察日は、運河パークでの横濱ジャズプロムナード2008、赤レンガ倉庫広場でのオクトーバーフェスト等)、一部トリエンナーレの会場と同一の会場で行われていた。運河パークでは、上記ジャズイベントへの来訪者もトリエンナーレ展示作品を興味深く鑑賞しているようであった。しかしながら、新港ピアや日本郵船海岸通倉庫といった有料(メイン)会場での展示についての説明が少なく、無料会場で偶然作品を見つけた市民がメイン会場へ足を運ぶような動線作りが弱い印象を持った。
総合ディレクタートークツアーでも話題が及んだが、会場が多く、一度にすべての会場や展示をまわることが非常に困難な印象を持った。入場チケットは1枚で2日間利用することができるが、2日間を通して利用した場合でも、各会場を巡回すると、ひとつの作品をじっくり鑑賞するというよりは、「よくわからないが、たくさん作品が展示されていてすごかった。」という感想を持ちやすい印象がある(総合ディレクターからも同様の示唆があった)。
4.総括
横浜市では、文化芸術創造都市ヨコハマを掲げ、芸術や文化の持つ創造性を活かして、都市の新しい価値や魅力を生み出す都市づくりを進めている。横浜トリエンナーレは2001年から開催され、今回で3回目の開催となる。 このような、大規模でクリエイティビティの高いイベントを継続して実施していくためには、最先端のクリエイターやそれを目指す若いクリエイターの取り込みと併せて、市民への認知度を高めることの双方が必要である。トリエンナーレにおいては、以下の三点において、各層の取り込みを行っていた。
- ・テーマに沿って世界規模で活躍するアーティストの作品(旧作、新作)を展示:最先端のクリエイターを取り込む。
- ・作品制作パフォーマンスの実施、ボランティアによる制作補助:若いクリエイターの制作意欲を刺激する。
- ・無料会場での展示や会場内ボランティア募集、解説ツアー実施:一般市民への認知度を高める。
特に、ボランティアの活用による、若いクリエイターや一般市民の取り込みについては、目を見張るものがあった。トリエンナーレの約2ヶ月半に及ぶ長い事業を成功させるためには、ボランティアの活用が不可欠であり、作品制作補助やアーティストの支援、作品解説員といったアート色の強いボランティアから、チケット販売や警備といった「アートに詳しくない」市民でも参加できるボランティアまでメニューが豊富にあることが、多くのボランティアを獲得した理由であると思われる。
今回ヒアリングをしたボランティアも、アートを学んでいた方だけでなく、「何かボランティア活動をやってみたいと思ったとき、一番やりやすいのがトリエンナーレだった」と言っていた。一般市民にとっては、アートに関心が少なかったとしても、来場者の状況やアーティストを間近にすることで、トリエンナーレや文化創造都市ヨコハマの現状を知ることができる。また、若いアーティストやクリエイターにとっては、クリエイティビティを目の当たりにすることで活動意欲が高まり、新たなクリエイティビティが生まれていくことにつながっていく。
トリエンナーレでは、最先端のアートを展示することで最先端のアーティストを逃さない工夫と合わせて、若いクリエイターへの刺激、一般市民へのアート寛容性の醸成という、すべての層の市民が接することができる事業体系を取っており、そのことが事業の継続性につながっていると感じた。
(2008.10.15 仙台市経済局産業振興課産業振興係主事 遠藤陽子)
- 横浜トリエンナーレ2008データ
- 会場:新港ピア、日本郵船海岸通倉庫、横浜赤レンガ倉庫1号館、三渓園ほか
- 開催期間:2008年9月13日(土)~11月30日(日)
- 開館時間:10:00~18:00(入場は17:00まで)
- 休館日:会期中無休
- 入場料:大人1800円 大学生1300円 高校生700円(期間中の2日間有効 ※連続しない日も可)
- 公式サイト:http://yokohamatriennale.jp/2008/