既存デザインフェスから展開のヒントを探る

REPORT-04:「SCVF04(しずおかコンテンツバレーフェスティバル)」

2008年10月31日から11月3日までの4日間、静岡市クリエーター支援センター(CCC)をメイン会場として開催された「SCVF04(しずおかコンテンツバレーフェスティバル)」。今年で4回目を迎えるデザインイベントとして、国内外からクリエーター・デザイナー・企業・学校などが参加し、最新のデザイン製品が紹介された。テーマは「産業とデザイン文化の融合」。「shots_世界のCMフェスティバル」、「DOTMOV」、「SCVマッチングプロジェクト」、「静岡発!ランデヴープロジェクト」など様々なイベントを実施した。

REPORT-04では、仙台市経済局産業振興課産業振興係の遠藤陽子主事が10月31日に同展及び関連団体・施設を訪れ視察した内容を紹介する。

【NPO法人しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアム】

(1)概要
NPO法人しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアムは、平成16年12月、静岡情報産業協会が静岡市長、静岡県知事に提出した政策提言書「しずおかコンテンツバレー構想」を受けて、同構想に賛同した有志により平成17年4月に設立した組織である。その後、優れたコンテンツを創出することのできる人材育成の環境整備、世界で活躍するクリエイターの育成に向け、平成19年11月に任意団体からNPO法人となった。

(2)役員
理事長は静岡産業大学学長の大坪檀氏、副理事長が静岡情報産業協会理事の小谷勇氏である。以下、理事として放送局、弁護士、商工会議所、公認会計士その他コンテンツ関連企業代表者がいる。なお、行政関係者の理事はいない。

(3)コンソーシアム会員
平成20年9月30日現在、会員数は76法人。その他個人会員を含めると100社・人程度が会員となっている。

【静岡市クリエーター支援センター】

(1)概要
しずおかコンンテンツバレーフェスティバル 静岡市クリエーター支援センターは、クリエーターの育成、コンテンツ産業の振興及びクリエーターと地域産業の連携等を推進する拠点として、平成20年1月に整備された。施設は、葵区の旧青葉小学校の校舎を改装したもので、鉄筋コンクリート造3階建て。専用床面積が6,261㎡ある。NPO法人しずおかコンテンツバレー推進コンソーシアムが指定管理者となっている。なお、同一建物内に、財団法人静岡観光コンベンション協会、静岡市国際交流協会も設置されている。
事業概要は、「入居者育成」、「発表支援」、「セミナー、ワークショップ、研修会の開催」、「クリエーター相互、クリエーターと他の事業者との交流」であり、そのほかに、デジタルハイビジョン制作・編集設備の貸し出し、コンテンツやコンテンツビジネスの普及啓発、コンテンツ産業に対する支援、クリエーターの創造的活動等に関する情報収集及び提供を行っている。

(写真:静岡市クリエーター支援センター外観)
(2)施設について
しずおかコンンテンツバレーフェスティバル 旧青葉小学校の改装は静岡市において行われた。改装費用は約6,000万円で、防火設備、冷暖房装置、電話・インターネット、電気配線、トイレ改装、駐車場整備などが主な内容。黒板やロッカー、水のみ場などは小学校で使っていたもののままで、ほとんど改装されていなかった。
クリエーター育成室は10室(約28㎡)であり、ひとつの教室を前後で仕切り2組のクリエーターで使用していた。そのほか、入居者の商談室(ミーティングルーム)や展示コーナー・ギャラリー、研修室、プレゼンテーションルーム、ハイビジョン映像編集室などがある。
(写真:クリエーター育成室の様子)
  • しずおかコンンテンツバレーフェスティバル
    研修室の様子
  • しずおかコンンテンツバレーフェスティバル
    廊下
(3)利用について
クリエーター育成室の利用料は30,000円/月、そのほか駐車場が9,000円/月である。立地は、静岡駅から徒歩10分圏内、近隣にはデパートや市役所・県庁等があるオフィス街であり、同程度の広さでは10万円程度するものもあることから、破格の値段といえる。
また、研修室や展示コーナーなど、育成室以外の設備は、一般市民でも「クリエーターの技術向上研修、活動の発表、映像等の制作」といったセンター設置目的に沿った活動や催しであれば借りることができる。
(4)入居クリエーターの状況
平成20年1月の設立当初からの入居者は4組。その後、2組が追加で入居している。クリエイターの活動分野は、キャラクターデザイン、粘土等による作品創作、靴デザイン、家具デザイン、情報誌制作など幅広い。また、学生中心のクリエーターから、世界的に活動した後フリーになり、新たな活動の場としてクリエーター支援センターを選んだクリエーター(このクリエーターは、センター内で他の入居者の相談を受けたり、支援をする活動も行っている。)まで様々な経歴のクリエーターがいる。
なお、入居クリエーターは1年ごとに評価を受け、最長3年間入居することができる。
(5)発表支援について
支援センター内には、常設の展示コーナーやギャラリーがあり、入居クリエーターの作品が展示されている。(申込みを行えば、入居クリエーター以外も作品の展示ができる。)
(6)セミナー、ワークショップ、研修会の開催
支援センター内では、コンテンツビジネスに関する様々な研修が行われている。セミナーは50名から200名規模のものまで幅広く、コンテンツプロデュース、映像コンテンツのコンサルタントや、マンガ家、広告代理店などが講師となり実施されていた。また、アートディレクターやデザイナーによるワークショップなども行われ、参加者数も10名程度から50名と幅広く、小学校低学年を対象としたものから、映像制作に関する専門的な内容のものまで幅広く実施されている。
これらのセミナーやワークショップは、支援センター内のキュレーターが企画している。キュレーターは、アトリエや映像制作に携わっている方でコンソーシアムの理事の方が非常勤で勤務している(月に常勤換算で3人程度)。
(7)クリエーター相互、クリエーターと他の事業者との交流
支援センター内では、海外からクリエーターを招聘し、セミナーや研修会を実施しており、入居者や関係者との交流会を開くなど、クリエーター相互の交流機会を創出している。
また、平成16年度から実施されている「静岡発!ランデブープロジェクト」では、静岡の地場産業がアーティストとコラボレーションし、新しい視点でモノづくりに挑戦するプロジェクトとして、新たな商品や生活スタイル、市場の提案を行っている。

【しずおかコンテンツバレーフェスティバル】

(1)概要
しずおかコンテンツバレーフェスティバルは、平成20年10月の開催で4回目を迎えるクリエイティブ・イベントである。静岡市クリエーター支援センターと近隣にあるサールナートホールを会場として、平成20年10月31日(金)から11月3日(月・祝)に開催された。
支援センター内では、シンガポールのクリエーターによる作品展示、イタリアの展示会「designboom」及びセミナー、「静岡発!ランデブープロジェクト」の新商品発表、支援センター入居クリエーターの作品展示、学生作品展などが行われた。また、サールナートホールでは、「shots_世界のCMフェスティバル」と題した2008年カンヌ国際広告祭の受賞作品や世界のCM優秀作品、アニメーション、ミュージックビデオなどが上映された。
(2)会場の様子
しずおかコンンテンツバレーフェスティバル コンテンツバレーフェスティバルの会場である静岡クリエーター支援センターの庭(旧小学校の校庭、現在は駐車場等に利用)には、複数の幟が立てられ、イベントを開催しているという雰囲気を出していた。また、当日は市内各地の広場や歩行者天国で「大道芸ワールドカップin静岡」が開催されており、クリエーター支援センターの校庭でも大道芸が行われていた。
支援センターの玄関は、旧小学校の児童用玄関だったと思われるが、扉が開放されているなど、大道芸を見に来た市民にも入りやすい雰囲気を演出しているようだった。
視察日は、平日だったこともあり、日中はセミナーも開催されておらず、来訪者も少なかった。各展示室や廊下にボランティア(応募者のほかに市内専門学校に依頼していたようだ。)が配置されていたほか、クリエーター育成室内では、入居クリエーターが作品を展示しながら、作品制作を行っていた。
玄関前にて、入居クリエーターや展示等に関係するクリエーターによる商品の販売が行われていた(販売は主にボランティアが担当していた。)。また、作品展示コーナーには、入居クリエーターの作品が展示されていた。
18:00からは、入居クリエーター5組によるプレゼンテーションが行われた。活動内容の紹介や、制作の様子を10分程度で発表していた。参加者は30~40名程度、学生から30代くらいの方が多い印象だった。参加者から各クリエーターへの質問時間も設けられたが、特に質問も出なかった。(写真:庭に立てられた幟)
  • しずおかコンンテンツバレーフェスティバル
    玄関前での販売の様子
  • しずおかコンンテンツバレーフェスティバル
    作品展示の様子

所感

静岡市における現在のコンテンツ産業振興は、クリエーター支援センターを中心として行われているが、センターが旧小学校の雰囲気を残したものであるからか、入居しているクリエイターやセミナー・ワークショップに参加するクリエイターが勉強をする場、彼らを育成する場としての雰囲気が出ていた。

支援センター入居クリエーターについては、事業の開始から1年未満であることもあり、育成室を卒業したクリエーターもなかったが、学生からデザイン専門学校講師まで様々な経歴のクリエーターがおり、キュレーターと協力してワークショップを行うなど、運営上の工夫が見られた。

本市のクリエイター支援体制は、仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアムを中心とした情報発信や交流事業、事業化支援等であるが、今後は、静岡市の体制に見られるような事業企画の中心となるキュレーターの存在が重要であるといえる。本市では、コンソーシアムプロデューサーが市内クリエーターの声の拾い上げを行っているが、その内容を速やかに事業の企画・運営に活かすところまで進められていない。今後は、ヒアリング内容から事業の企画・運営を行うことができるよう、会員やプロデューサーとの連携を強めるとともに、コンソーシアム企画委員会なども活用した活発な事業展開を図ることが必要であると思われる。

(2008.10.30 仙台市経済局産業振興課産業振興係主事 遠藤陽子)