過去と未来から現在に光を当てるということ

「人はなぜ美術館に行くのか」ということが以前から気になっていた。私も美術館に行く人々のうちの一人だが、別に展示を見に行くわけではない。その空間と時間の流れを体験しに行っていると言った方がいいかもしれない。フェスも独自の時間と空間を作り出す表現の一つである。美術館はその意味でとても興味深い場所である。今回は三上氏にデザインやアートの過去、現在、未来との関わりを中心に話を聞いた。

都市におけるミュージアムの機能

柿崎:美術館は都市における文化的な中核を担っているというイメージがあります。そこでまずは、都市のクリエイティビティを考える上でも重要だと思われる美術館が果たす役割についてお伺いしたいのですが。

三上:当然、美術館はクリエイティブな空間と言えるでしょう。宮城県美術館も宮城、仙台市におけるアートの中心的な活動を担ってきたと思います。もちろん作家、アーティスト側が発表する場ということもありますが、同時に、鑑賞する側にとってもクリエイティブな空間でもあります。鑑賞者を育てるという言い方はおこがましいですが、そういう役割を担っている施設として、ここへ来ると心が刺激されたり、何かが触発されたりする経験ができる場所というのも都市の中で美術館が果たしている機能でしょう。

柿崎:確かにそうですね。どちらかというとクリエイティブということを話す時には作り手の方に目が向きがちですが、見る側というか受け取る側にとってのクリエイティブの重要性ということがあるわけですね。

三上:まずは、博物館と美術館の話をしましょう。英語だと両方ともMuseum(ミュージアム)ですが、日本語だと美術館と博物館というように分かれます。仙台市の場合ですと、仙台市博物館が伊達家の収蔵品が主となる近世以前の分野を扱い、宮城県美術館が明治時代以降を対象に扱うというように役割を分担しています。近代から現代にかけての美術を扱っているということは、同時代のアーティストの作品も紹介していくということになりますので、現代アートと言われるものも開館以来、美術館の使命として展示紹介してきています。せんだいメディアテーク(以下メディアテーク)が出来てから、メディア・アート的なものはメディアテークでということはあるかもしれませんが、私たちも現代のアーティストには興味があるので、連携しながら現在進行形のアートと今後も向き合っていこうと考えています。

柿崎:そういう美術館とメディアテークの協力関係から生まれたのが、「仙台芸術遊泳(SCAN)」なのですね。

三上:そうですね。ミュージアムのネットワーク事業を始めるにあたって、博物館のコレクションのような古いものをコンテンツとして連携するのはなかなか難しいという実情がありました。現代アートをテーマにすると、色々な施設がつながっていけるということがあって、私たちが2005年と2007年に実施した事業というのは切り口として現代アートというところからスタートしています。現代アートですと、博物館も文学館もつながれるところがあり、それはそのまま現代アートの特徴の一つとなっています。現代アートが、美術館や画廊、ギャラリーにとどまらず、町へ出て行って、いろいろなところでコミュニケーションを成り立たせるような、非常にフレキシブルな情報発信の機能を持っているということです。そこで、メディアテークと現代アートをテーマにした一緒の事業をやれると面白いねということでスタートしました。

柿崎:なるほど。現代アートの特徴の一つとしてフレキシブルなコミュニケーションが可能ということが挙げられるわけですね。

三上:はい。それ以前のいわゆる絵画の鑑賞の仕方というのは、作品と鑑賞者の間に見えない壁がありました。実際に、ここから入ってはいけないという柵があったりして(笑)。つまり、作品と対話することを求められて、それが難しかったり、堅苦しい感じになっていたのです。そこで、美術を愛好する人とそうでない人が分化してきて、美術ファンとそうでない人、例えば、ここ(宮城県美術館)にあるカンディンスキークレーを見て、「わからない」と言ってあきらめてしまう人たちが生まれてしまったのです。昔から美術教育が行ってきた鑑賞の方法とは違う鑑賞の形態を、現代アートは提示してくれるので、すんなりと、日常生活の中に溶け込んでしまうところがあります。それには遊びの要素があったりするんでしょうけれども。ひとつは、場の問題ですよね。美術館やギャラリーといった展示スペースに規定されないという。