創造的な都市におけるフェスの位置づけと果たすべき機能について

仙台を創造的な都市としていくために、フェスをどう活用していったら良いのか、フェスを文化振興と産業振興の実現といかに結びつけていけるのか、せんだいメディアテーク学芸員としてメディア・アートを始めとする数々の企画を実現してきた清水建人氏に率直な意見を聞いた。

エレクトロ・ミュージックとビジュアル・デザイン

清水:「クリエイティブ」という言葉をどうとらえるかは難しい問題ですね。

柿崎:クリエイティブ、確かにどう言ったらいいのか難しい言葉ではありますね。「クリエイティブ関連都市型フェスティバル調査研究会(以下FesLab)」でいうところのクリエイティブは、都市文化を産業や経済と結びつける媒介項という意味合いで使用しています。更にフェスのコアとなるエレクトロ・ミュージックとメディア・アートに関してはいずれもテクノロジーをベースにしたものとなる予定です。

清水:なるほど。いずれにしろ産業につながっていくものということですよね。

柿崎:はい。そうなればいいなと。そうなっていくための仕組みを考えたいなと思っています。ただ一過性のフェス、お祭り的な性格だけのものにはしていきたくないということです。モデルを構築できれば、フェスを事業として継続していけるのではないかと。そこで清水さんにお聞きしたいのですが、特に、メディア・アートと呼ばれるものの現状はどうなっているのでしょう?

清水:今、お話を聞いて、実は3つほど気になる点がありました。まず1つ目ですが、エレクトロ・ミュージックを前面に出すのはいいと思います。その分野の大規模イベントはまだ仙台ではありませんでしたから。ただ、それが一般的な音楽フェスティバルのようになってしまうと、産業の集積や基盤になっていくものとなるかは微妙なところなので、新しい仕掛けが必要でしょうね。2つ目は、産業振興として考えていく時には、デザインという言葉でフェスのコンセプトを統一した方がいいと思います。産業振興と考えるならば、アートではなくデザインのほうが合っているでしょう。3つ目は、メディア・アートを一方の柱とすることに対する懸念です。メディア・アートという用語の理解のされ方も幅広いと思うのですが、アートではなく産業につながっていく可能性で打ち出す場合、ITバブルの経験を踏まえた上で考えていく必要があります。

柿崎:具体的にどういうことなのでしょうか?

清水:日本の現代美術はバブルと同調して盛り上がっていったのですが、メディア・アートの場合、テクノロジーという産業と直結する要素を含んでいる分、経済のシステムに簡単に回収されてしまうために、ビジネスに発展しそうなものだけが取り上げられ、他方でアートとしては周縁に置かれてしまった。しかしそれでも、アートとしてテクノロジーの実験的な使用を試みる表現がいくつもありました。それは、産業振興へのアンチテーゼとして、メディア・アートが生まれ出る社会基盤自体を批判的に見ていく行為でもありました。しかし結局は、よりビジネスライクなITが潮流化し、アートではなくエンタテイメントとして消費されることを加速してしまった。そして現在、国はそれを正面切ってやろうとしていますよね。アニメなどコンテンツ産業と言われるものですね。アートやテクノロジーの孕むカウンター・カルチャー的なバックボーンを抜きにして国策化して取り組んでしまうと、ものすごく陳腐なものになってしまいます。既にもうアニメなどは同じようなものしかできなくなってきていますよね。現状として。ですので、盛り上がっているといわれているけれども、むしろ、危機的な状況になってきていると思います。

柿崎:20年前にテクノロジーを使ったアートやデザインについて文化的、産業的な側面双方について推進し始めた国もあったわけですね?

清水:オーストリアのリンツで開催されている「ARS ELECTRONICA」などは、当時から地域振興になるような発想でメディア・アートに取り組んできています。リンツでは教育機関と企業、行政が一体となって観光面とリンクさせたフェスを実施していますね。

柿崎:アルス・エレクトロニカは今回のフェス研究でも参考にしたいと思っています。民間主導ですとバルセロナの「Sonar」にも興味を持っています。そこで、フェスを考える場合にアートは文化振興、デザインは産業振興にそれぞれ結びつくということですが、もう少し具体的なお話をお聞かせください。

清水:例えば、条件を変えて、アートが産業につながるかということを考えてみると、アートはアートであるが故につながらないということだと思います。デザインが産業と結びつくのはプロダクト・デザインやグラフィック・デザインと言った時に商業的なデザインを多くの人が思い浮かべるように、比較的わかりやすいということがあります。しかし、アートは、社会のシステムの外側にあろうとする性格を持っているので、産業と結びついて社会システムの内側に入ってしまうと、アートとして成立しなくなってしまうんですね。自分で自分の首をしめてしまうわけです。デザインとは原理が違うわけです。

柿崎:なるほど。確かにそうですね。ただ、創造的な都市を指向する場合に、産業振興が成功すれば創造的な都市かと言えば、それは違うわけで。結局、そこに住む人たちの生活の質が実感値として高くなるためには、デザインと同時にアーティスティックなものがどうしても必要になってくる気はします。

清水:今回のフェスで想定しているのがエレクトロ・ミュージックとビジュアル・デザインととらえ直しますと、エレクトロ・ミュージックはサウンド・デザイン、ビジュアル・デザインはまあ言葉の通りということです。ビジュアルという事で、映像的な要素が強くなるとは思いますが、両方とも、デザインという括りでフェスを実施した方がいいと思います。仙台でビジュアル・デザインという括りのデザインが盛んになるのは、それはそれで面白いのでは。