アーティストやデザイナーの支援

柿崎:産学官連携がうまくいかない原因についてはどうお考えですか?

清水:都市の規模など条件の違いで変わってくるでしょうが、地方の場合だと、田んぼの真ん中にビルを建てて学校を作っても、卒業してそんな何もないところで商売しろと言われても無理な話だということです。やはり商売自体を育てるようにやらないとダメということですね。クリエイティブな分野については、学校を出てすぐ商売を始めるのではなくて、一定期間、国や自治体が保護してあげるというような特殊なことができるかどうかということが成否の鍵を握ると思います。難しいとは思いますが。5年くらいは家賃等なしで活動できるような場所を用意したり、そこを共同オフィスとして使えるようにしたり。そして、その5年の間に独立していくというような。それぐらいの仕組みを作らないと学校と産業振興は結びつかないでしょうね。

柿崎:アーティストやデザイナーがどういう形で収入を確保していくかという問題についてはいかがですか?

清水:学校の先生をやるかギャラリーがついているといいですけどね。メディア・アーティストに関して言うと、商品にならないので、色々なフェスティバルを渡り歩くしかないというのが現状です。アーティストの場合は、アーティストとして生きていくと決めた時点でそれはしょうがないですね。お金にはならないことをやっているので。

柿崎:では、クリエイティブな人々が集まる都市にするためには、都市に何が必要でしょうか?

清水:フランスのようにアーティストに対する支援制度があれば別でしょうけど。優れた活動をしているアーティストを選定して1年間制作費をあげて、その都市に住んでもらうというようなことをやればいいのかもしれませんが、現状では難しいと思います。文化振興という部分ではアーティストの支援、産業振興という部分ではデザイナーの支援をしなければならないということがあります。そして、その両方に共通して言えるのが、両方の分野の人材を育成する教育機関が不可欠ということです。メディアテークで展示を企画していて痛感するのですが、関心を喚起する上で、学校があってその展示をやっているというようなことがなければ見に来る必然性があまりないわけです。なので、根本的な問題解決として芸術大学の設置を挙げたいですね。

柿崎:専門的な教育機関の設置については私も全く同感です。コンテンツ産業の集積にしても人材育成にしてもコアとなる教育機関、研究機関がなければ、外部から人を集める求心力が機能しないわけですから。では、芸術大学もしくはクリエイティブに関する高等教育機関を設立することを仮定し、FesLabが想定しているフェスティバルもそれに貢献すると考えた場合、どのような方向性が考えられるでしょうか?

清水:ある種反抗的にやるべきでしょうね。デジタル・コンテンツなどは今、脚光を浴びすぎて逆に魅力がなくなっています。デジタル技術を使用したサウンドにしてもそうだと思います。アンダーグラウンドな感じやアナログ的なものが持つ魅力がないですよね。陽のあたる部分だけだと、多分、人間は興味持たないと思うんですよ。「これは立派なものですよ」と言われたら、「あ、そうですか」としかならないわけで。行政が入りこみ過ぎるとクリエイティブが持つ本質的な魅力の一部が失われる懸念もありますね。

柿崎:そういうアンダーグラウンド的なことをする場合に、清水さんが名前を上げられる方っていますか?まあアンダーグラウンドな方たちなのでフェスなどというものには出ないと思いますけど(笑)

清水:そうですね(笑)。出ないとは思うんですけど、いたら面白いですね。名前は忘れましたが、北海道か青森にすごいサウンド・アーティストがいるらしいんです。50歳くらいの方で全くメジャーではないのですが。ところが、プロはみんなその人のことを知っているわけです。ノイズミュージシャンの中での知名度はものすごく高い。そういう人が結構いるようです。アンダーグラウンド過ぎる人たちは本当にすごいままでひっそりと消えていくという感じですね。そんな人がフェスのラインナップにあがっていて、これ誰?というのがあったら面白いんじゃないですかね。それで演奏すると実際にすごいと。最近DJでもおじさんの方がすごいプレイをするらしいですからね。

柿崎:それは面白いですね。しかし、そういう方たちを見つけるのはとても難しい。しかも、彼らは出たがらないという問題もあります。出たがらないというのに出そうとすることへの疑問もあります。ただ、そういう埋もれたすごさというものをそのままにしておく歯痒さ、ジレンマというものは、アーティストに限らずありますね。

清水:あとは、学校は無理でも、新しくクラブのような場所を作るというのもありですね。卸町の倉庫なんかがいいと思うんですけど。倉庫を買い取って、インキュベーションセンター兼クラブ兼アトリエみたいな。この間モントリオールに1週間ぐらい行ってきました。モントリオールは、F1とジャズフェスで有名な町です。僕はダンスフェスティバルに行ったのですが、町の中にダンス用のパフォーマンススペースのような所がたくさんあるわけです。それがどのように経営されているのか、行政がやっているのか、民間に委託して運営しているのかわかりませんが、こういうのがあると人が集まりやすいのでいいなと思った記憶があります。

柿崎:なるほど。人が集まりやすい場所ということですね。それが、クリエイティブな仕事をしている人たちが集まる場所づくりのヒントになるような気がしますが。

清水:都市のコアになるような学校があれば、そこの卒業生、先輩という感じでつながりがあったりするのですが、仙台はバラバラですよね。どこにだれがいるのかわからない。その都市のどこか特定の場所に行ったら、必ずそこに同業のもしくは異業種でもクリエイティブなものに関心を持つ誰かがいるような場所があるといですよね。だから卸町の倉庫などを1つ買い取って、週末はクラブイベントがあり、バースペースもあって、仕事もできるみたいな場所があるといいなと。

柿崎:そうですね。そういう場からクリエイティビティが生まれてくる可能性は高いですね。