artist-run spacesの発想

清水:海外ではよく、ギャラリーでもartist-run spaces(アーティストランスペース)というのがあって、アーティストたちが集まって、自分たちでギャラリー経営自体もやるというものがあります。だからそういうアーティストラン的な、もしくはデザイナーラン的な場所があるといいなと思います。しかもそういう場所がいくつかあるといいですね。行政が、artist-run spacesを作るところまでやって、あとはアーティスト自身の運営に任せるというスタイルがいいと思います。

柿崎:フェスのビジュアル・デザインの候補としてはどのような方たちが上げられますか?

清水:ビジュアルデザインではなくアーティストですが、まず挙げたいのはエキソニモです。実はエキソニモは数人のアーティストと、DORKBOT tokyoというのを主宰していて、それにも注目しています。DORKBOTは世界中で行われている電気を使った個人的な発明品やアート作品のプレゼン大会のようなものです。僕自身もDORKBOT仙台をやりたいとずっと思っています。高校生が自分の部屋で雷を作ったりするんです(笑)。YouTubeにもアップされているので見てみてください。ビジュアルデザインとしてはSemitransparent Designなんかもいいですね。

柿崎:モーション・グラフィックスや日常生活の質を高めてくれるようなビジュアル・デザインをテクノロジーをベースにして実現している方たちも呼びたいですね。そうなった場合展示へのアドバイスが何かあれば教えてください。

清水:例えば倉庫でやるとして、作品自体はそんなにたくさんなくてもいいのではと思います。展示物自体は多くても5点くらいで、大きいものを設置する。そうした展示物がある中で、ビジュアル・デザインに関するイベント、例えば、サウンド・デザイン分野のデザイナー、アーティストとのコラボレーション、そしてDORKBOTがあったり(笑)。その方が面白いかなと。静的な展示よりもライブ感のある方が見せ方としていいかなと思います。

柿崎:アーティスト・イン・レジデンスといったこともフェスに合わせてできればとも思ったりするのですがいかがでしょう?

清水:やはり学校がなければ、外部からアーティストやデザイナーを呼ぶ事も難しいということがあります。彼らを呼んで2泊してイベントだけ出て帰るというようなことは可能ですが、1年間仙台にいて、特にアーティストに作品を制作してくださいということが難しいですね。本当はそちらの方が意義があるのに。一つの作品を作るときにはやはりそれなりに時間がかかってしまうので、仮に実現できたとしても、現状では、制作する場所がないんですよね。ホテルにいても仕方ないわけですし。だから本格的に滞在して制作をすることを可能にするには、やはり制作の場として、学生との交流•教育の場として芸術大学等があることが前提にあると呼びやすいということはあります。それが文化振興ということだと思います。

柿崎:テクノロジーをベースにしたデザインやアートの将来についてはどうお考えですか?

清水:ハード的に全く新しい技術に基づいたものが登場すれば、また別になると思うんですが、現状だと、特にデジタルコンテンツ分野はますます均一化していくと予想しています。関係性を作るという意味では、もう誰でもデザインできる可能性があるということです。多分、一般の人からすれば、デザインがデジタルかそうでないかは、既にどうでもいいことになっていると思います。

柿崎:それだけテクノロジーをベースにした表現が一般化し、日常生活に溶け込んでいるということでしょうか。つまり、そうしたものが最早特別なものでなく、生活の質を高めるもしくは心地よくするために応用できる段階になっているということですね。

清水:それに関連して、例えば、ショールームみたいな展示を作って、いわゆる新しい表現と言われるものを集めてもナンセンスという問題があります。そういうことをするよりも、さっきも言いましたが、ここに展示しているアーティストがあと1年間仙台にいますと言える方が説得力があると思うんです。そうじゃないと、本当に毎年開催される日常生活とはさして関係ないただのショールームにしかならないですよね。

柿崎:そうですね。冒頭でもお話しましたが、ただ毎年繰り返されるその時だけのお祭りにはしたくないということはあります。毎年、何を残していけるかということが重要ですから。そしてその集積が創造的な文化振興、産業振興につながっていく必要があるので。

清水:産業の振興については、東北大の工学系の最先端の研究とコラボレートできた方がいいですね。今、仙台には芸術大学はありませんが、世界的な研究をしている大学があるという個性を活かすべきです。例えばソーラーカーのデザインを有名なデザイナーがデザインしてそれを100万円で売るとか(笑)。

柿崎:東北大にはクリエイティブ関連専門の学部、研究科はありませんが、イノベーティブな研究が世界の最先端を行っていることは確かです。イノベーティブな研究や開発物をデザインするというのは面白いかもしれませんね。

清水:研究者とデザイナーが組んで新商品を作り、それを企業に売る際のプロモーションの場としてフェスが活用されるということです。エキサイティングな感じの雰囲気があるといいですね。

柿崎:結びついているようで、実はバラバラになっている仙台の様々な都市資源をデザインし、再結合させていくことが実はこのフェスの役目なのかもしれませんね。

(2008.08.12 柿崎慎也)

清水建人(シミズケント)
1976年岐阜県生まれ。東京造形大学、IAMAS卒。2001年よりせんだいメディアテーク学芸員として、現代美術やメディア・アートのプロジェクトを企画。主な企画展は「景観−もとの島」「Re: search オーストラリアと日本のアート・コラボレーション」など。また2005年からは宮城県美術館、仙台市博物館、メディアテークなど文化施設による共同企画体SCAN(Sendai Contemporary Art Network)の企画委員として「仙台芸術遊泳」などのプロジェクトに参加。2008年は、メディアテークのチューブを活用したサウンド・アートの企画「5番チューブ再開発計画」や、現代美術家の高嶺格の個展「大きな休息−明日のためのガーデニング1095㎡」を企画。高嶺展では、作家による卸町での滞在制作から展覧会までを実施する。
Contact: http://www.smt.city.sendai.jp/