音楽はコミュニケーション・ツール「人間くさいことを、テクノロジーを使ってやる」

海外での音楽制作の経験から、音楽は言語の壁を乗り越えると語るナカムラ氏。i-dep、Sotte Bosseといずれもクラブジャズ、ハウスで国内外から注目を集めるグループを牽引するプロデューサーとして、音楽と人間の関わりをどう捉えているのか。「人間くさいことを、テクノロジーを使ってちゃんとやりたい」という言葉の奥に迫る。

定禅寺ストリート・ジャズ・フェスティバルのインパクト

柿崎:仙台はどのようなイメージの街ですか。

ナカムラ:一番好きな街のひとつにもなっています。決定的だったのが「定禅寺ストリート・ジャズ・フェスティバル」(以下ジャズフェス)への出演です。今までずっとクラブフィールドで活動してきたわけですが、音楽を作っている時には特にクラブ・ミュージックを作ろうとしていたわけではなかったんです。ジャズフェスのいいところは、参加が無料だということ、お客さんの世代が全世代にわたるということです。それで出演を決めたのですが、その時に印象的だったのが、車椅子の方達がちゃんと前の方の席に来れるシステムになっていることでした。前にお年寄りがいて、後ろで若者が聞いているみたいな。3,000人から5,000人がその人なりの音楽のノリ方を楽しんでいるのを見て、このようなことを街を上げてやるという仙台という街が、文化的にオープンな街だなと思いましたね。

柿崎:クラブフィールドからジャズフェスのような全ての世代が観客となるフェスティバルに参加されるようになったことで、音楽制作の姿勢で何か変わったことはありましたか。

ナカムラ:姿勢が変わったというよりも、間違っていなかったなと。アメリカでライブをした時も、大丈夫だと思ったんですけど、ジャズフェスに出演した時も、i-depがひとつのコミュニケーション・ツールとして成立したなと実感しましたね。

柿崎:国内外で活躍されているわけですが、地域によってお客さんの性格はかなり違うものですか。

ナカムラ:それは完全に時間の問題という気がしています。僕らと今70代のお年寄りでは、クラブミュージックへの触れ方が全然違うわけじゃないですか。今は全世代が歌える歌が無いと言われていますが、音楽は続けることが大事ということがまずあると思うんです。これからは、100万人が全員素晴らしいと思う曲もいいとは思うんですが、100万人いて5,000人が、この音楽となら死ねると思う曲、もしくは100万人中の5,000人が200種類の曲を楽しむというような音楽の成り立ちになっていくのではないかなと。インターネットがもっと進化すれば。マスメディアがいいと言っているものはもちろんいいものもありますが、そうじゃない音楽もたくさんあって。そうじゃない音楽の広まり方に興味がありますね。

柿崎:マスメディアの影響から自由になり、更にインターネットの普及によって、音楽の楽しみ方が多様になると、世界と地域の音楽や地域のムーブメントが結びつきやすくなるような気がするのですが、いかがでしょうか。

ナカムラ:インターネットに関して痛感しているのが、初対面はこうして合わないとダメだなということです。1回会った後のインターネットでのやり取りは便利だなと思うんですが。音楽は面白いもので、1回聞けば、好きか嫌いかすぐにわかります。だから、世界のどこかの地域のムーブメントが好きだなと思えば、どこででも同じムーブメントを起こすことはできると思います。僕はよく「音楽と煙草だけは戦争にならない」と言うんですけど、お金と違って、海外に行って「煙草くれよ」と言われたらあげますし、音楽も言葉みたいなもので、共有できるので。言語の壁を乗り越える何かが音楽にはあると思います。宗教すら超える何かが。