ドラスティックに都市を変えることはない

大滝:仙台という街は、このような意味で言うととても恵まれた条件を兼ね備えているのに、そういうものをうまく生かし切れていないなという感じを非常に強く持っていて、このクリエイティブ・クラスターを考えたときに、それをどのように考えていったらいいかということについて、皆さんからもこの後、いろいろな考え方や意見を出していただけると面白いと思います。もちろん私というよりも岡田さんにいろいろぶつけてもらえると面白いと思います。

 それからもう一つは、クリエイティブ・クラスターは、今、世界中で注目されているという話が岡田さんからありましたが、仙台に即して言うと、目にみえる現象で言うと今後は、地下鉄東西線が非常に大きなトリガーになるだろうと思っています。私は東北大学の地域イノベーション研究センターで、印刷工業団地のリニューアルというプロジェクトに取り組んでいて、今年でもう3年目になります。平成27年度開業予定の地下鉄東西線で、印刷工業団地のある六丁の目駅と東北大学に駅ができて繋がるということがあるので、そういう意味で大学も含めた若いパワーというのを団地の周辺にむしろ吸引して、「ビジネスデザインセンター」のようなものも含めて、新しい、比較的都市型の製造業や古い産業の一つというように考えられている印刷工業や印刷産業というものを新しい発想でリニューアルしていこうとしています。東西線が通って、そこに新しい発想や知恵、人の流れができるということがあって、それを一つのきっかけにして仙台の中にクリエイティブ・クラスターを作っていこう、そういうことがあると思います。

 今日の岡田さんのもう一つのお話は、それをフェスティバルみたいなものと、つまりフェスティバルを一つの突破口にしながら、そこでクリエイティブ・クラスターの波を起こしていこうということじゃないかと思うのです。特に東西線の開通は仙台のクリエイティブ・クラスターについて様々な可能性をもたらすでしょう。印刷団地だけではなく、隣の卸商団地といって流通関係の企業が入っているところでは、倉庫や、空きスペースを利用して、若い人たちがそこでいろんな事ができるようなインキュベーションのようなことを始めています。そういうところと色々な意味でリンクすることによって、同時に色々な可能性が出てきてもっと面白くなるんじゃないかというようなことを今考えています。

 それからもう一つは、さっきリンツの話を聞いていて、製鉄とICT(情報通信技術)はとても相性がいいというお話に関してです。今たまたま印刷団地というものをやっているわけですけれども、やはり、地域の中に根付いている産業とこういう新しい取り組みといったものをどういった形でリンクしていったらいいのかという問題です。  さっきのリンツで言うと、メディアやアートと製鉄というものが上手くリンクして、そこで新しいものが出来上がっていくという、そのようなことも仙台にとってもとても面白いポイントなのではないかと感じました。  ただもう一方で、やはり日本は随分閉塞しているな、世界の今の動きから見ると、ということです。なかなか地域の中から新しいことが起こってくるという動きが上手くつかめなくて、先ほどからもお話があるように、どこか既存の勢力に吸い寄せられていってしまたり、ある枠の中に閉じ込められてしまってなかなか突破口が見いだせないということがあります。何を突破口にしてこういうのを開いていったらいいかわからないというような。  そういう閉塞感のようなものがあって、仙台を見ていて多少そういうところもある。どこを切り口にして何から突破口を見つけていったらいいかというようなところがなかなか見えません。岡田さんが仙台を見ていて、仙台の持っている可能性とかポテンシャルのようなもの、そういうようなことについては外からご覧になっているということが多いと思いますが、少しそんなようなところからお話頂けませんか。

岡田:仙台についてはそんなに深くは知らないわけで、今回のお話も、一般的なお話としてお話しさせて頂きました。その上で、まずお話していきたい部分がいくつかあります。新陳代謝の話と、都市と文化の関わりという話をしたわけですが、たぶん今やろうとしていることは、そんなにドラスティックに都市を変えることはないと思うのです。リンツの話も持ち上げましたが、実際にはそういう部分があるというだけであってリンツの人たちが100%アルス・エレクトロニカを知っているかというと、そうでもなくて、なんとなく知っていて中身がわからないという状態もあるわけです。リンツ的なやり方を本当に一番やるべきなのは北九州市でしょう。北九州市は鉄の街であり、なおかつ荒廃地で荒れた人たちがいるような場所があり、いわゆる産業転換もうまくいき始めたと。その中でそこの町に暮らす人が減っていると。そこに暮らす人たちがカルチャー・ヘリテージとして自分たちの産業を目で、そして自分たちの持っている可能性や地域が持っている可能性を愛することができるというようなことを都市文化行政と産業行政が一緒にやったら良いと思います。

 北九州市がそれを本気でやればもっと、いわゆるリンツ以上のポテンシャルが出るような都市ではないかと思います。せんだいメディアテークの後にコンセプティングされている方が、北九州にもイノベーションセンターを作ろうという動きに関わったことがありましたが、これは正直言って、ある種の情報論的見地やメディア論的見地の話で、産業の記憶を形にしてみたいな話では形にならないと思うんですよ。まさにそこにいる、北九州だったら98万人のいてもらいたい人、残ってもらいたい人もしくは来てもらいたい人に対して、いわゆる誇りになる、もしくは良くなってもらうというものを作るということをしていくということが本当は重要だと思うわけです。