イベントを通じて、クリエイターが顕在化していく。

岡田:僕の考えでは、やり方をちゃんとすれば他にないものなのでできると思います。その時にやっぱり理屈よりもいかに共感を得られるようにするかということだと思います。電子音楽がどうこうという話については、難解なものをやったとして、どれだけの人たちが求めているのかという、ポピュラーミュージックとベタなポピュラーカルチャーの間が広大に広がっているような、そこの魅力をすごく引き出していかないといけないと思うんですよ。それが他にはない体験というもの、日本の中で仙台だけという形になってくるのではないかと思うわけです。

 あとは、やはりそのフェスティバルがある種の「おもてなし」のメカニズムを持っているということもポイントになります。アルス・エレクトロニカのすごいところの一つは、やはり世界中からVIPが集まって来たり、世界企業のバイスプレジデントレベルの人たちがやって来て、ちゃんと地元でもてなすんですよ。もてなすと言っても地元の人たちが手作りでもてなすとかじゃないですよ。

 地元の人たちがスマートに、おいで頂いたということで気持ちよくお話しして頂いて、そして気持ちよく食べていただいて、気持ちよく泊まって頂いて、そのままお帰り頂くみたいな、普通に皆さんが快適だと思う、無理しない身の丈のおもてなしをしていることが、世界のVIPの人々の集客に結び付いているところです。とても参考になる話だと思います。

 「身の丈のおもてなし」は日本にはあまりないのではないでしょうか。やはり力を持っている会社にやってもらおう、いくらかかるんだ一体、というような話になりがちです。さもなければ、全部手作りでやりましたという話のどっちかになってしまって後者はノウハウが残らない、走っても走ってもくたびれたという感じしか残らない。前者のやり方も何も残らない。

 そうではなく先ほど言ったすべてが地産地消、自分たちで知恵を残してそして知恵を生かして、知恵がなければみんなで考えるか、他にこの街の中に知恵がある人がいるに違いないと、ちゃんとクラスターを作ってやっていくということをしていくことができれば、仙台という街はすごい伸びしろがあるように思うわけなんです。ここでいきなり1万人のクリエイターに対して良くしてあげようという数値目標を作るのではなくて、まずは、何とかやっていける人たちから支援を始めて、それでやっていけるんだよというように徐々に輪を広げていくことがとても重要かなと思うわけです。

大滝:ありがとうございました。最初の方のお話で、クリエイティブの地産地消を進めるということがありました。そういうクリイティブな若い人たちがそもそもどこにどういう形で存在しているのか、というのが必ずしも我々にはよくわからないということが1つと、それからもう1つはその人たちと地元の人たちをどういう風にうまくつないでいったらいいかという、そういう問題が1つあるんじゃないかという気がするんですけれども、そのあたりは岡田さんはどのように考えますか。

岡田:一般的に言うと若い人と地元の人がつながらない時、若い人も地元の人だということを忘れてはいけません。結局、若い人も地元の人なのに同人だのオタクでニートでと言っているから、駅の風俗ゾーンの近い所に同人ショップがたくさんあったりする状態になっていたり、コスプレのようなものがどんどんどんどん見ていられない形になってしまっています。ですので、もうちょっと風通しのいいところに、やはり市民なんですから、早いうちにおいてあげたりとかしていたらですね、間違った萌カルチャーのようなものがここまで広まったりしなかったと思います。もっとヨーロッパ的なポップカルチャーのような広まり方をしただろうと思っているのですが、その人たちも市民だということ、市民だからこそやはり見栄えのいいところに行くというところが重要なんですよね。

 これはちょっとそれた話になりますが、僕がインキュベーターを作る時には、同人サークルを探します。その地域で売れている同人サークルを。彼らを法人化させて、何年間か無償で使用できるスペースを提供します。いわゆるコミケ1個で5000万ほど売るサークルもありますから。そんな年商3000万の同人サークルが1個仙台にあったら、例えばの話ですが、彼らから法人税率1000万徴収できるわけです。つまりそういうインキュベーターは自治体にとっても経済効果をもたらすわけです。それでなおかつ顕在化させたら、その都市発のクリエイターだと言えるわけですよ。さっき言った、彼らも市民というのはそういう話です。市民としてきちんと盛りたてますよということです。

 何を言おうとしているかというと、まさに地域の人たちの結びつきではなく、営んでいる人たちの営みをどうやって全面に出していくということです。地元のクリエイターに「君のデザインいいね。今○○っていう旅館が、もしくは○○っていう居酒屋チェーンがこういう広告展開を考えてるけど、ちょっと会わせるから一緒にやってみない?」ということをするクリエイティブのファシリテイターやつなぎ手というのがとても必要だと思うわけです。

 あとは、発表の場としてデザインイベントのようなものが重要だと思います。そこには、ほとんどが地元の人が来るわけですが、その噂に聞いた他の地域の人たちもやってきて繋がりが生まれるわけです。イベントを通じて、クリエイターが顕在化していくということもありますね。

岡田智博(オカダトモヒロ)
1971年信州松本生まれ。ニューヨーク大学大学院 School Of Education (Media Ecology) を経て、 九州芸術工科大学大学院(視覚芸術)および東京大学大学院学際情報学府(メディア論)を修了。 キヤノン・デジタル・クリエーターズ・コンテスト、マルチメディアアライアンス福岡など、 マルチメディア・コンテンツに関するクリエイティビティー向上と普及のための事業の立ち上げに多数尽力の後、 NPOクリエイティブクラスターを設立。芸術・文化・デザインによる先端領域の普及と産業化のためのインキュベーション活動に執り組んでいる。 特に近年は、インタラクションデザインとメディアアートのニュータレントを送り出す展覧会シリーズ 「エレクトリカルファンタジスタ」のプロデュースにおいて国際的に注目を集めている。
Contact: http://creativecluster.jp/
http://coolstates.com/
大滝精一(オオタキセイイチ)
1952年長野県岡谷市生まれ。1980年東北大学大学院経済学研究科博士課程修了。専修大学経営学部講師・助教授、東北大学経済学部助教授・教授を経て、1999年より東北大学地域イノベーション研究センター長。専門は経営政策で、日本ベンチャー学会理事、組織学会評議員を歴任。2008年4月より地域イノベーション研究センター長に就任。「印刷工業団地リニューアル・プロジェクト」のリーダーとして、仙台市のクリエイティブ・クラスター構想に関わりを持つ。また、幅広い市民活動の促進・支援に携わり、せんだい・みやぎNPOセンター代表理事を務める。2007年12月より日本放送協会(NHK)経営委員(東北地区代表)。
Contact: http://www.econ.tohoku.ac.jp/rirc/index.html