新しいローカリティは世界と直結する(2)

鹿野:先ほど話題に出た「cultural typhoon 2008 in Sendai」で、北海道で活動している建築家の五十嵐淳さんが「北海道の気候に合わせた建築を考えれば考える程、いわゆる日本の標準的なものとは外れて、北海道に、寒冷地に特化した建築になっていきます。そして、そこまで極端にローカルになっていくと、それが逆にモンゴルで同じ考え方ができる」というような話をしていました。ですからローカルの特化したものというのは、東京と地方の関係性を無視すれば、一気にグローバルなものになるということですね。
 ローカル性は、地域性というよりも何かそこで特有なものを生み出す環境であって、その特有なものが特有なものであるほど世界とつながりやすい。そういうことだと思います。それが生み出しやすい環境であるかどうか、それが重要です。まあいいかえれば変わり者が、生き生きできる街と言う事でしょうか?(笑)。

柿崎:同感です。ある特定の地域の経済の循環システムがあって、そこと似通った利害関係が生まれる構造を持った地域が世界中のあちこちにあるとすれば、日本のある地域が直接海外のある地域と結びつくということも可能性としては考えられるわけです。地域同士が自由にグルーバルに結びつくということです。地域に特化したものが特化するほど世界と結びつきやすいということですね。

鹿野:例えば、東北出身のクリエイターや地域の学生さん達と一緒に、仙台を拠点にiPhoneのソフトウェアを世界に配信しようと考えると、我々スタッフや作る場所としては、仙台に根ざしたとてもローカルなものとなります。でも地域経済との関連性は薄まってしまう。それが最終的に地域経済に結びつけばより良い循環を生み出すと思うのですが、私としてはその循環に関しては、まだ見いだせていないところなんです。でも一番重要視すべきは、作り手の目標、やる気、夢だと思っています。

柿崎:結局、結果に過ぎないですよね。地域振興や文化振興というのは。最初からそこを考えてやってしまうと、全く違うものになってしまいます。

鹿野:そうですね。でも、これから将来、新しい形のローカルがもっと自然に形成されていくのではないか?と楽観的に考えているところもあります。

柿崎:その自然な形成という点、興味深いのでもう少し詳しく話して頂けますか?

鹿野:多くの人々が、一カ所から大量に発信される情報に対して、多少不信感を感じているし、以前ほど魅力を感じなくなってきているような気がするのです。たとえばテレビのビジネスモデルも厳しい状況にあるようですし、今後はマスコミュニケーションそのものがどうなっていくのか、不透明な状況がおとずれるのかもしれません。そう考えると、今後はもう少しローカルなハブが、これまでにない魅力を持ってくるのではないかと思います。それが浸透していけば、自然に情報の流れが変わってくるのではないかと。

柿崎:今はまさに過渡期ですよね。マスコミュニケーションとしては。今はSNSのような極私的なコミュニティでつながることによるコミュニケーションを発見してしまった時代に入っているわけです。個人間で交わされる情報量も20年前と比べると格段に増え、ビジネスでもCGMを重視するようになっているわけです。そこで一方的な発信を行ってきたマスコミュニケーションというものの立ち位置が変わってきているということです。マスコミュニケーションのシステム自体が変化して行く、行かざるをえない状況なのだと思います。

鹿野:今まで当たり前のように右肩上がりだったものが、そうじゃないんだという状況が目前にある。そういう状況下では、ちょっと違うクリエイティブというか創造性が自然に出て来るんじゃないかという楽観的な希望を持っているんです。仙台はまだその兆しは感じにくいですが、FesLabで考えているようなイベントが定期的に行われば、なにか新しい可能性が生まれるのではないかと。