インターフェース・デザインが拓く未来

鹿野:Motion Graphicsが日常生活に入ってくるのは大いにあると思います。それはなぜかというと、これからはインターフェースのデザインがより重要になるからです。動きやよりエモーショナルな表現が必要になるはずです。極端に言えば商品の特徴がインターフェースそのものになっていく可能性が非常に高いです。iPhoneなんかはまさにその一例かと。
 もしかするとインターフェースのデザインが、従来の「広告」に代わる非常に重要な接点になるのではないかと思います。より生活に寄り添ってアドバイザーのような存在になるかもしれません。例えば携帯するデバイスが「今日はお酒を飲まない方がいいんじゃないですか」というように囁くわけです(笑)。

柿崎:それは助かります。飲み過ぎないようになるかもしれませんね(笑)。インターフェースが商品の特徴になっていき、それがマスの広告に代わるものになっていくというのはとても興味深いですね。

鹿野:人に寄り添い、小声でアドバイスしてくれる。しかもそれは一カ所から無差別に配信される情報ではなく、ユーザーに最適な情報です。もしかすると地方同士をつなぐ可能性もあります。そこに非常に関心を持っています。「おすそわけ」のようなものかもしれません。
プライバシーの問題等を考えると、まだまだそういったシステムの確立には時間がかかるかもしれません。でもマスメディアに代わる面白い一つのつながりができるような気がします。

柿崎:もしかしたら経済システムの変革にもつながるかもしれないですね。

鹿野:インターネットのオークションがありますよね。自分にとっては必要ないものでも、誰かにとっては必要なもだったりするんですよ。それがもう少し自然にやわらかくつながっていけば、面白い事になると思いますよ。一気にデファクトスタンダードとして普及することはないと思いますけど、そういう仕組みが色々なところで実験として行われはじめて、いずれ世界中がつながり始める。僕はそれがインターネットの本当の姿だと思っています。

柿崎:フェスを触発の場として捉えた場合、鹿野さん個人の触発の経験からどのように場作りを進めたら良いと思いますか?

鹿野:触発という側面ですと、やはり他人の作品を見るということがとても重要だと思っていますので、そういった機会が多ければ多いほどい良いのかもしれません。また、大学等と連携してフェスに学術的な要素も盛り込むと継続性が出るかもしれないですね。たとえば認知科学の視覚的な見地からも展示を楽しむというようなことは面白いと思います。あとはPodcast などで、フェスの内容ではなく、フェスのテーマに沿った講義が配信されるというのはいいんじゃないでしょうか。

柿崎:ありがとうございます。では、鹿野さんはこれまで様々なイベント、インスタレーションやエキシビションを体験してこられたと思いますが、その中で印象深かったことをお聞かせください。

鹿野:地域で作品を発表する最大の利点は、自分の身近な人に気軽に作品を見てもらえる事です。生まれ育った場所で発表するのですから当然の事かもしれませんが。せんだいメディアテークで2006年に行った「Motion Texture」の展示は、自分の子供を連れて行けたということと、パブリックスペースでの初めての大掛かりな展示だったという点で感慨深かったですね。

柿崎:最近の展示はどちらで行われたのですか?

>鹿野:先月、横浜で開催された「エレクトリカル・ファンタジスタ2008」です。円柱の鏡にゆがみを投影して映し出すという作品「Polar Candle」を展示しました。これが最新ですね。僕は、今は先ほど話したインターフェースデザインに強い関心を持っています。年内には商品が発表される予定です。現在進行中のプロジェクトとしては、東北大学工学部の本江准教授と「MEGAHOUSE」の映像化を進めています。映像をモジュール化するという試みです。

柿崎:今、気になる表現をしている方はいますか?

鹿野:メディアアーティストの岩井俊雄さんが、自分のライフスタイルに合わせて作品を変化させている点に興味を持っています。それから佐藤雅彦さんにもいつも触発されます。あと、takramの田川さんという方はインターフェースデザインを技術と感性の両方でとらえている、日本でも希有なデザイナーだと思います。

柿崎:フェスでは鹿野さんを始めwowlabのみなさんの作品を通して、より多くの人たちとこの時代の記憶を共有することができればと思います。そして新しい領域へ挑戦しようとしているすべての人たちの触発の場、最新テクノロジーと関わることで人間がどう変化していくのか、生活の質がどう高くなっていくのかに思いを馳せる場として機能していくことができればと考えています。

(2008.09.03 柿崎慎也)

鹿野護(カノマモル)
1972年生まれ。東北芸術工科大学卒。WOWアートディレクター。WOWにてCMを中心に様々なコンピューターグラフィックス作品を手がける一方、サイト「未来派図画工作」にて個人的な表現活動を展開中。配布を前提とした映像作品の公開や、海外のデザイナーとの共同制作プロジェクトに多数参加。最近ではインターフェイスデザインのためのアートをテーマにwowlabを主宰。国内外でインスタレーション作品の展示を積極的に行っている。
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